『キングスマン:ゴールデンサークル』(Kingsman:The Golden Circle)
イギリスのスパイ機関キングスマンの拠点が、謎の組織ゴールデン・サークルの攻撃を受けて壊滅した。残されたのは、一流エージェントに成長したエグジーと教官兼メカ担当のマーリンのみ。2人は同盟関係にあるアメリカのスパイ機関ステイツマンに協力を求めるが、彼らは英国文化に強い影響を受けたキングスマンとは正反対の、コテコテにアメリカンなチームで……。
監督はマシュー・ボーン。出演はタロン・エガートン、コリン・ファース、マーク・ストロング、チャニング・テイタム、ジェフ・ブリッジス、ハル・ベリー、ジュリアン・ムーア、ブルース・グリーンウッド。
2017年、イギリス製作。上映時間は140分。レイティングはPG12。配給会社は20世紀フォックス。
舞台はアメリカへ移動。今作の敵は麻薬王で麻薬の合法化を目指す間違ったアメリカの恋人を演じるのはジュリアン・ムーア。今作の悪役の面白いところは麻薬の合法化を目指すという所だ。しかも彼女は「白砂糖は過剰摂取したら健康被害がでるのに、それを売ってる奴らは金と名声を手にしてる。なんで麻薬はダメなの?」とかなり的を得た発言をする。そしてこのセリフはキングスマンの味方であるステイツマンにもそのまま言える台詞である。ステイツマンはウィスキーで商売をしているが、お酒は合法化されている中で最も人間が依存しているものだからだ。なんだかんだいって麻薬よりもよっぽど依存度と致死率は高い。それなのにみんな平気で商売しているのだ。
そしてさらに面白い人物はアメリカ大統領だ。麻薬に溺れる彼らを自己責任とののしり全く対策をとろうとしない態度はリバタリアンそのものであり、現在のアメリカ大統領に対しての強烈な皮肉だ。しかもそんな大統領をブルース・グリーンウッドが演じる面白さ。彼は善良なアメリカ大統領を演じさせたら右に出る役者はいないのではと思うくらい善人大統領役が似合うのだが、そんな彼がとんだ悪役を演じる。『キングスマン』のキャスティングは本当に毎度面白い。
もちろん主要キャスト人がほとんどオスカー俳優というのも凄いが、それ以外だと本人役のエルトン・ジョンと大統領補佐官を演じたエミリー・ワトソンも素晴らしかった。また冒頭部分でプリンスの「Let's Go Crazy」を流すのだが、それはプリンスへの哀悼の意を感じるし、スウェーデンの王室に婿入り?するエグジーが正真正銘のプリンスになることを暗示している。しかし著作権に対して非常に厳しい態度を取っていたプリンスが生きていたら曲使用の許可をおそらく出さなかったと思うので、そこは少し不安である。彼の意向を少しでも反映してくれる制作環境であってほしい。
なぜかこのシリーズは日本で神聖視されているのだが、私はちっともこの映画は面白いと思わないし(人気があるのは分かる)、もしろ嫌いなくらいだ。しかし相変わらず下品と上品を行ったり来たりするのが面白い作品ではある。しかしいきなりキングスマン本部が爆発で消えたり、親友でありエグジー以上に強いはずのランスロットがすぐ殺されたり、愛犬まで死んだりとめちゃくちゃ展開すぎるところはやはり支離滅裂としていて良くない。そして男性たちの絆をあんなに強調する癖に、それに比べて女性の描写は悪い。
※2023年2月に編集・加筆